相続について(1)

相続とは、自然人の財産などの様々な権利・義務を他の自然人が包括的に承継することをいいます。一般的には、人の死亡を原因とするものを相続と呼ぶことが多いのですが、死亡を原因としない生前相続の制度も存在します。また、日本国憲法が施行される前の日本における家督相続は、死亡を原因とする場合もしない場合も含んでいます。

現代の法の相続制度

現代の法の相続制度については、被相続人と生計をともにした遺族の生活を保障する趣旨であるとみる説や、被相続人の遺した財産が無主物となってしまうことを防ぐ趣旨であるとみる説などがあります。

相続における財産の承継形態

比較法上、相続原因が発生した場合(死亡など)に被相続人から相続人に財産が移転する形態には、包括承継主義と清算主義の形態あります。

包括承継主義
相続原因の発生と同時に、被相続人と利害を有する者との間で何らの清算手続を経ずに、被相続人の財産が包括的に相続人に移転する様式です。この制度では、被相続人の財産は債務も含めて一切が承継されるため、債務の相続を回避するためには別の手続(相続放棄、限定承認)が必要になります。日本、ドイツなどで採用されている様式です。 もっとも、この場合でも、限定承認の制度が採用されている場合は、所定の手続を経れば清算主義に近い様式となります。
清算主義
この様式では、相続原因が発生した場合、相続財産は直ちに被相続人に承継されず、一旦死者の人格代表者(personal representative)に帰属させ管理させます。そして、この者が被相続人の利害関係人との間で財産関係の清算をし、その結果プラスの財産が残る場合はそれを相続人が承継します。これは英米で採用されている形態です。包括承継主義と異なり、建前上は相続人が被相続人の債務を承継することはありません。もっとも、相続財産が小額の場合は費用倒れになること、多額の場合でも清算手続を経ない方が経済的に望ましい場合もあるため、現実には清算手続を経ずに債務も含めてそのまま相続人が財産を承継する方法がとられることもあります。

相続の開始

相続は、死亡によって開始します(882条)。尚、死亡には、失踪宣告、認定死亡も含まれす。相続人は、相続開始の時(被相続人の死亡の時)から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(896条)。相続の「開始」という用語を用いますが、いわば相続の開始の瞬間に被相続人の財産上の権利義務は相続人に承継されるもので、時間の経過とともに次第に権利義務が移転するというものではありません。

相続人

被相続人の財産上の地位を承継する者のことを相続人といいます。また、これに対して相続される財産、権利、法律関係の旧主体を被相続人といいます。相続開始前には、推定相続人といい、被相続人の死亡による相続開始によって確定します。相続人となる者は、被相続人の子・直系尊属・兄弟姉妹及び配偶者です。相続人となり得る一般的資格を相続能力といい、法人は相続能力を持ちませんが、胎児は相続能力を持ちます(886条)。被保佐人が相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をするには、その保佐人の同意を得なければなりません(13条)。

相続順位

直系及び傍系(兄弟姉妹)の相続権(889条)

(1)被相続人の子

(2)被相続人の直系尊属

(3)被相続人の兄弟姉妹

被相続人の配偶者は、上記の者と同順位で常に相続人となります。同順位同士との相続となり、遺言による指定がない限り他順位間とで相続することはありません。

相続欠格

故意に被相続人や他の相続人を死亡に至らせたり、遺言書を破棄・捏造するなど第891条に規定される重大な不正行為(相続欠格事由)を行った者は、その被相続人の相続において当然に相続人としての資格を失ないます。これを相続欠格といいます。遺言状ではなく遺産を隠しただけでは、相続の権利は失いません。

相続人の廃除

被相続人に対して虐待・侮辱あるいは著しい非行があった場合、被相続人は家庭裁判所に申し立てる事によって、その相続権を喪失させることができます(892条)。これを相続人の廃除といいます。相続人の廃除は遺言による申し立てによっても可能です(893条)。廃除された推定相続人は相続権を失います。

代襲相続

相続の開始以前に被相続人の子あるいは被相続人の兄弟姉妹が死亡、相続欠格・廃除によって相続権を失った場合、その者の子が代わって相続します(887条2項本文・889条2項)。これを代襲相続といい、代襲相続する者を代襲者、代襲相続される者を被代襲者といいます。代襲者は被相続人の直系卑属でなければなりません(887条2項但書)。この代襲相続の問題点としては、養子縁組前に出生していた養子の子は被相続人の直系卑属ではありません(民法727条は養子と養親およびその血族との間に血族関係が生じることを認めていますが、養親と養子の血族との間に血族関係が生じることは認めていません。)から代襲相続することは出来ない(大判昭和7年5月11日民集11巻1062頁)という判例が昭和戦前にあるものの、これは養子を嫡出子の実子と全く同等なものとして扱う法理とも親の親は祖父あるいは祖母であるという社会常識とも明らかに矛盾しているにもかかわらず、今なお解消されていません。なお、相続放棄は代襲原因とはならず、相続放棄をした者の直系卑属(子・孫・曾孫・・・)には代襲相続は発生しません。

相続権

代襲者である相続人の子が死亡・相続欠格・相続廃除によって相続権を失った場合、孫が代わって相続します(887条3項)。これを再代襲相続といい、代襲者は直系卑属(子・孫・曾孫・・・)では延々と続くことになる。ただし、相続人が兄弟姉妹の場合には代襲者は甥姪までとなり、大甥大姪の再代襲相続は認められていません(889条参照)。また、相続人が直系尊属の場合、代襲相続とはいいません。

相続の一般的効果

相続により相続人は原則として被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継します(896条本文)。しかし、下記のような例外があります。

一身専属的権利

相続人の一身専属的権利は相続が発生しても承継されません(896条但書)。下記のようなものがあります。

  1. 代理権(111条1項1号)
  2. 定期の給付を目的とする贈与(定期贈与、552条)
  3. 使用貸借における借主としての地位(599条)
  4. 委任における委任者あるいは受任者としての地位(653条)
  5. 民法上の組合の組合員としての地位(679条)

祭祀に関する権利

系譜・祭具・墳墓の所有権は原則として慣習により祖先の祭祀を主宰すべき者が承継するものとされますが、被相続人の指定があるときはその者が承継することになります(897条1項)。

共同相続

相続人が数人あるときは相続財産は共同相続人の共有に属することになります(898条)。この「共有」の意味については共有説と合有説の対立がありますが、判例は249条以下の共有と異ならないものと解して共有説をとっています(最判昭和30年5月31日民集9巻6号793頁)。相続分とは相続人の相続財産に対する分け前の割合や数額のことで、普通はその割合をいいます(900条)。

指定相続分

被相続人は遺言で共同相続人の相続分を定め、または、相続分を定めることを第三者に委託することができます(902条1項本文)。このような方法によって定まった相続分を指定相続分といいます。ただし、被相続人や第三者は相続分の指定について遺留分に関する規定に違反することができません(902条1項但書)。被相続人が共同相続人のうちの一人もしくは数人の相続分のみを定め、または第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は法定相続分の規定によって定まることになります(902条2項)。

遺言と指定相続分

上記のように遺言により相続分の指定・指定委託をした場合でも、消極財産は指定相続分によらず法定相続分に応じて分割されるという説が有力です。これについて大審院決定昭和5年12月4日は、「金銭債務のその他可分債務については各自負担し平等の割合において債務を負担するものに」と述てべています。(したがって消極財産は遺産分割の対象とならないとされます。(下級審判例:福岡高決平成4・12・25判タ826・259)。 平成21年03月24日最高裁判所第三小法廷判決(平成19(受)1548)は、傍論ではありますが「もっとも、上記遺言による相続債務についての相続分の指定は、相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与がないものですから、相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり、各相続人は相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときにはこれに応じなければならず、指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできませんが、相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し、各相続人に対し指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。」と判示しています。これは大審院判例の見解を維持しているものと考えられます。この判例では、指定相続によって明示または黙示的に債務の帰属を定めた場合、債権者に対しては効力が及びませんが、相続人相互間ではその指定通りの効力を生じることを判示しています。 ただし、国税通則法または地方税法の適用・準用がある公租公課については、遺言による指定・指定委託があれば、指定相続分による承継が原則となります。(国税通則法5条2項、地方税法9条2項が民法902条を用いることを明記しています)。なお、公租公課については、承継する財産の価額が承継税額を超えるときは、その超過部分を限度に他の相続人と連帯して納付する義務を負います。(国税通則法5条3項、地方税法9条3項)

法定相続分

遺言による相続分の指定がない場合は法定相続分(900条)によることとなり、具体的には次の通りとなります。

  • 他の親族の該当者が複数存在する場合は相続分の中から均等分にする。
  • 直系尊属の場合、生存する最近親のみの相続となる。

婚外子(非嫡出子)の相続分

最高裁判所は2003年(平成15年)3月31日に、婚外子(非嫡出子)の相続分について、憲法14条1項に違反するものでないとの判決を示しましたが、その中で「本件規定が、明らかに違憲であるとまではいえないが、極めて違憲の疑いの濃いものである……相続分を同等にする方向での法改正が立法府により可及的速やかになされることを強く期待するものである。」という補足意見が付されています。

特別受益者の相続分

共同相続人中に被相続人から特別受益を受けた者については、相続における実質的公平を図るため、相当額の財産について持戻しを行います(903条)。 特別受益には次のようなものがあります。

(1)遺贈

(2)婚姻のための贈与

(3)養子縁組のための贈与

(4)生計の資本として贈与

寄与分

共同相続人中に被相続人の財産の維持または増加について特別の寄与をした者については、相続における実質的公平を図るため、相当額の財産を取得させる寄与分の制度(904条の2)が設けられています。これは1980年の民法改正で設けられたものです。

相続分の取戻権

共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲渡したときは、他の共同相続人はその価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができます(905条1項)。ただし、この取戻権は1ヶ月以内に行使する必要があります(905条2項)。